現場へ! 医学研究 日本の実相(5)
大阪大のがん病理学研究室。金岡賢輔さん(33)が、手袋をはめてがん細胞の遺伝子を調べる準備をしていた。4月、医師9年目で、大学院博士課程に入った。
「実験の基本を覚えているところです」
大学院に進学する医師は減少傾向にある。医師としてのキャリアを4年中断し給料は減る。技術進歩は速く戻った時に追いつくのはたいへんだ。臨床の現場でも研究はできる……。そう考える人も多い。
金岡さんは呼吸器内科医として肺がん患者と向き合ううちに、がんの仕組みをもっと深く理解したいと思った。細胞や動物を使う基礎研究の道に入ることを決めた。
研究室を主宰する井上大地教授(44)も臨床医として自信がついた頃、勝手が違う基礎研究を始めるために大学院に入った。
診療の際は、患者の検査結果の数値を信頼して病状を解釈した。しかし、基礎研究の実験を始めた当初は、自分が出した結果が信頼できなかった。間違いか真実かわからず、仮説通りなのか逆なのか、判断できなかった。
2度めの「丁稚」だと思って
実験の進み具合を報告する会議が憂鬱(ゆううつ)だった。2年たっても思うような結果が出てこない。追い詰められた。研究のセンスがないなら、大学院を中退したほうがいいと思った。医者に戻れば人並みにできる自信があった。
でも、もう少しだけがんばろ…